芸術写真の歴史

2018/07/19 出品作品のご紹介

 現在、ニュースや広告、書籍などのマスメディア、または日々の記録や思い出の1枚など、私たちの生活には「写真」が欠かせません。19世紀にフランスで発明された写真は、瞬く間にヨーロッパ中やアメリカ、そして世界中に広まり、さまざまな分野や状況で利用され、やがて芸術の1ジャンルとしても扱われるようになりました。

 来週7月28日㈯に開催されます、第53回オークションでは、欧米や日本の著名な写真家の作品が多数出品されます。それにともない、コラムでも今週と来週の2回にわたって、芸術写真の歴史について触れていきたいと思います。

 レンズなどを通して得られた像を、感光剤で焼き付けて現像する「写真」は、発明された19世紀初めは時間と手間のかかる技術でしたが、19世紀半ばには技術の進歩とともにヨーロッパで熱狂的に広がりました。写真は都市や大自然、外国などの風景を記録するだけでなく、多くの人々の姿も写しました。19世紀は王侯貴族に代わって市民中心の社会へと変革し、市民は以前までは王侯貴族のものであった肖像画を求めるようになりました。そして、絵画よりも手間のかからない写真による肖像画が流行し、写真は絵画的な役割も期待されました。

 写真が人々の間に浸透すると、目で見たものをそのまま描き出す写実的な絵画は存在意義を問われ、絵画は色や形の造形表現や人間の内面を重視するモダニズムへと展開していきます。一方、科学技術の産物である写真にも芸術性を求めるようにもなり、19世紀末から一部の写真家によってピクトリアリスムという運動が起こりました。ピクトリアリスムとは、空気遠近法を意識したぼかしや細部の省略など、絵画的表現を取り入れたもので、この時代、写真と絵画は対立しながらも互いに連動するようにして発展しました。

 20世紀に入ると、ピクトリアリスムは絵画の模倣にすぎないと否定し、写真本来の機能と写真にしかできない視線を重視する考えが起こり、新たな写真芸術がアメリカとヨーロッパで生まれます。

 アメリカでは、レンズ本来のストレートで精緻なまなざしをとおして、あるがままの風景や人物を撮影するストレートフォトグラフィが主張され、アンセル・アダムス(lot.136, 137)やエドワード・ウェストン(lot.145~150)などが活躍しました。

 ヨーロッパでは、ダダイズムやシュルレアリズムなどさまざまな絵画の前衛芸術運動と写真が結びついて、マン・レイ(lot.167)など多様な写真家が表れました。

 アメリカとヨーロッパで起こった芸術運動は、いずれも写真史におけるモダニズムとして後の写真芸術に大きく影響を与えていきます。

<来週に続く>