2018/08/09 美術トピック
夏も盛りを迎えて日本各地で夏祭りなどが行われ、東京でも先日に隅田川花火大会が開催されました。昭和53年(1978)より毎年催される隅田川花火大会ですが、その前身は「両国の川開き」と呼ばれるもので、始まりは江戸時代・8代将軍徳川吉宗の時代までさかのぼります。享保17年(1732)、大飢饉と疫病の流行によって江戸で多くの死者が出ると、その翌年に犠牲となった人々の慰霊と悪病退散を祈り、隅田川で水神祭が行われました。その時に、両国橋周辺の料理屋が花火を打ち上げたことが花火大会の由来になったとされています。
今も花火大会は大勢の人で賑わいますが、江戸時代でも夏の風物詩として庶民に親しまれ、当時の風俗を描いた浮世絵にも花火を主題としたものが数多く残されています。
例えば、幕末の江戸の風景を表した歌川広重の連作≪名所江戸百景≫の中の1つ、「両国花火」には当時の「両国の川開き」の様子が描かれます。縦長の画面の上半分は夜空、下半分には隅田川が広がり、川面には両国橋と小舟のシルエットが浮かびます。画面中央を貫くように赤燈色の火が天高く上がり、煌めく光が薄墨色の夜空に花開いて、花火を半分の姿に切り取ることでその大きさを見る者に想像させます。一方地上では、橋の上で大勢の人々が行き交い、明かりを持たずに花火を眺める様子がうかがえ、また船上から花火を見物する人々も見えます。しかし中には大きな提灯を掲げた屋形船もあり、よく目をこらすと、船内で宴会を楽しむような人影を見ることができます。
≪名所江戸百景≫の他にも、歌川豊国≪両国花火之図≫や歌川貞房≪東都両国夕涼之図≫などが残され、絵師たちは花火と見物客の様子を個性豊かに描きました。江戸時代の花火は、現代の多彩な色と形の花火と異なり、赤燈色一色と単純な形だけでしたが、浮世絵では趣向をこらし躍動感にみちた花火が表現されています。そして橋の上につめかける大勢の見物客や、花火よりも屋台に目を向ける人々、おしゃれをして団扇片手に歩く姿など、現代と重なる人々の様子が見てとれます。
江戸時代からすでに150年の時が経ち、街も人々も大きく変わっていますが、それでもなお江戸時代からの行事が連綿と続き、江戸の人も平成の人も同じように楽しみます。今も昔も人々が惹きつけられるものに変わりはないことを浮世絵は私たちに伝えてくれています。
〈次回オークション 出品募集〉
次回、秋季特別オークションは、2018年10月13日(土)に開催いたします。
アイアートはオークションへの出品作品を随時募集しております。
(次回の募集締め切りは8月20日(月)になります)
作品の査定は無料ですので、お気軽にお電話、またはEmailにてご連絡ください。
皆様のご出品、またはご参加を心よりお待ちしております。
〈夏季休業のお報せ〉
また誠に勝手ながら、8月11日(土)~19日(日)の間、アイアートは夏季休業とさせていただきます。
作品のお引き取りや出品等のお問合せはご対応できかねませんので、ご不便をおかけいたしますがご理解いただきますようお願い申し上げます。