LOT.070

平山 郁夫〈1930-2009〉
髙雄の森(京都)

  • 作品カテゴリ: メイン日本画
  • 24.0×33.2cm
  • 紙本彩色・額装
  • 右下に落款、印
    / 共箱・東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書付
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  • 予想落札価格: ¥3,000,000~¥5,000,000

〈作家・作品について〉

「京を訪れる喜びはまだまだ多い。千年という永い歴史の陰翳や古都を取りまくかけがえのない自然の美しさに酔えるという幸せを、私は古都の四季を訪ねる度に味わうのである。」

 上記のように語った日本画家・平山郁夫は、作品でも京都各地の壮麗な寺社や風景を数多く表していった。
 平山の手による今回出品作≪髙雄の森(京都)≫も、京都市の北西に位置する自然豊かな高雄山の森を描き、山中にある建物は古刹・神護寺の境内であろう。
 山は濃い緑葉に覆いつくされ、細やかな緑のグラデーションと陰影によって鬱蒼とした森の奥行が表現される。そして木々のあいだからは堂宇の屋根が少しだけ覗き、本来は見上げるほどに大きな建物であるはずが、本作では深い森にこじんまりと埋もれている。
 この控えめな描写は、平山が『私の京都讃歌』という文章のなかで言及した、神護寺の特徴と関連があるだろう。文章では、大陸文化を模倣していた奈良時代に対して、平安時代から都となった京都では、かな文字や和歌など、日本独自の文化が育まれた歴史を振り返り、寺院建築について述べたのは、奈良時代は大陸の様式に従って堂宇が整然と並んでいたものが、平安時代の神護寺は山の斜面をうまく使い、自然の景観を損なわずに建物を周囲の環境に溶けこます工夫をして、こんにちの姿に発展したということだった。すなわち、本作に見える光景は、日本の風土と調和する神護寺の魅力を表していることが偲ばれる。
 神護寺は、平安京の造営に携わった和気清麻呂ゆかりの寺院で、天台宗の開祖である最澄が訪ね、14 年間住持した空海が真言宗立教の基礎を築くなど、平安仏教の発祥地として日本仏教史上重要な地位を占める。また高雄山は紅葉の名所としても古くから知られ、室町時代からさまざまな美術作品に錦秋の風景が取り上げられた。
 しかし今回出品作では、神護寺の威厳を示す寺宝や美しい秋の季節を描くことはせず、緑景と寺院が融合する様相を表す。その視点は、仏教のもつ悠久の歴史、仏教を介して生まれた文化や人の交流を理解し、豊かで奥深い美の世界を描きだした平山ならではのものと言えるだろう。
 仏教はインド・シルクロード・中国をたどって伝来し、奈良時代の日本で終着すると、平安時代からは日本のなかで独自の発展を見せ、日本文化を支える基盤となった。日本仏教の揺籃の地を描いた本作は、日本ならではの仏教の在り方を示し、画家が高雄の森を通じて感じた、自然と文化が一体となる美しさを伝える1 作である。