LOT.127
森本 草介〈1937-2015〉
遠い日
[掲載文献]:『森本草介画集』P21, No.15として掲載 (求龍堂:1997年)
[展覧会歴]:『第9回 サロン・ド・アブリル展』出品 (日動画廊:1983年)
[来歴]:日動画廊 (東京)
〈作家・作品について〉
画面左側から穏やかな光が差し込み、正面から視線を逸らした女性が物憂げな表情を浮かべている。背景には何もないシックな色が使用されており、細部にまで丁寧に描きこまれた衣装のレースとその一本一本がまるでそこに存在しているかのような髪が、被写体の存在感を際立たせている。鑑賞者に触れてみたいとさえ思わせるような血の通った滑らかな肌をもつ女性がモデルとなった本作品は、ただ現実にあるものをそのまま描いたというだけではない、何か詩的な雰囲気を我々に感じさせる。
本作品でモデルとなっている女性は、写実的な静物画をもって画壇に登場した森本草介が1979年のある展覧会で出会った人物であり、そこから繰り返し描かれてきた女性である。古来より美の象徴として描き続けられてきた女性像に想いを馳せてきた森本にとって、このモデルとの邂逅は非常に大きなものであったことが窺い知れる。女性は無機質な物体ではなく、画家の眼前に存在する人間である以上、時間とともに少しずつ変化する存在ではあるが、画家によってその一瞬の輝きが捉えられたそれは、時間が経過してもなお、常に人々を魅了する作品となっている。また、音楽家になりたかったという森本草介は自らショパンをはじめとするピアノを弾く作家であったが、本作品からもクラシック音楽の旋律が静かに聴こえてくるかのようである。