LOT.083
棟方 志功〈1903-1975〉
妙法蓮華之図
【作品について】
法華経は、大乗仏教の代表的な経典であり、誰もが平等に成仏できるという、新しい仏教思想が説かれている。聖徳太子の時代に仏教とともに日本に伝来し、複数ある漢訳の中で鳩摩羅什によるものが特に普及しており、その訳名が本作品のタイトルでもある「妙法蓮華経」となっている。
自著『板画の肌』の中で「裸体( ハダカ) の、マッパダカの顔の額の上に丸い星をつければ、もう立派な仏様になって仕舞うんだから、ありがたく忝いんですね。それがホトケさまというものなのです。( 略) その額の星がつくと、つかないとで、タダの素裸の女であったり、ホトケサマに成り切ったりするという、大きな世界は、うれしいものです」と画家自身がいっているように、額に白毫が付けられ、画面上に大きく描かれた円窓の中にいる女人は菩薩、或いは仏をイメージして描かれたものであろう。群青色の髪を頭頂に束ね、後ろになびかせ、下膨れの頬とキレの良い大きな目が特に印象的である。
この円窓から女人が顔を出し、それを囲むように言葉が描かれるという構図は他の棟方作品でも多く見られるが、本作品を特別なものにしているのは約30 号という画面の大きさであり、その大きな画面所狭しと描かれた作品からは、画家のみなぎるパワーと想い入れが伝わってくるようである。