LOT.020

Marc Chagall (マルク・シャガール)〈1887-1985〉
Four tales from the Arabian Nights(『アラビアンナイト』から4つの物語)12枚セット

  • 作品カテゴリ: 版画
  • (シートサイズ/各)43.5×33.0cm (イメージサイズ/各)37.8×28.8cm
  • 版画(リトグラフ)・未装
  • (各)右下余白にサイン・左下余白にED.90
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  • 予想落札価格: ¥20,000,000~¥30,000,000

[参考文献]:『シャガール石版画全集』P61~71, No.36~48 同図掲載(出版21世紀:1978年)
『シャガール・リトグラフ全作品集』P48~55, No.36~47 同図掲載

【作品について】

 マルク・シャガールは「愛の画家」「色彩の魔術師」とも呼ばれ、油彩のみならず多彩な造形表現に取り組み、豊かな芸術世界を花開かせた。版画でも優れた作品を数多く残し、とくに「アラビアンナイトから4つの物語」は、画家にとってはじめてのカラー・リトグラフ作品であり、さらに戦後の出発点となす記念碑的な存在でもある。
 シャガールは1944年に滞在先のアメリカで最愛の妻ベラを亡くす悲劇に襲われ、およそ1年もの間絵筆をとれなかったが、周囲の支えによって次第に立ち直ると、1948年に本作を制作した。「千夜一夜物語」の名でも知られる中世イスラムの説話集から、シャガールは恋愛と冒険にまつわる以下の4つの物語を選び、幻想と官能に満ちた世界を色鮮やかに描きだす。

「カマル・アル・ザマンと宝石商の妻」(1-3枚目)
 ある日、美しい容姿をしたカマル・アル・ザマンは父と共に街に出かけると、突然、目の前に僧が現れ、彼を見て泣き出します。不思議に思った父親はその僧を家に招き、僧が淫らな思いをもって美しいカマル・アル・ザマンに近づいたのかどうかを確認するために、その少年を通じて「少女よりも美しい私の胸を見なさい。そして私のくちづけは砂糖菓子よりも甘い」という言葉の罠を仕掛けました。すると僧は、自分の恋焦がれる美女がその少年に瓜二つであったことから、少年の顔を見た時にふいに涙が溢れ出たのであると説明しました。僧がその美女と出会ったのは、僧がバスラの街へ訪問した際のことです。街は、店は開いているのに誰もおらず、僧が不審に思っていると音楽と共に80人もの人々の行列に出くわしました。街では、その行列の真ん中にいる主の姿を見た者は次々と処刑されていきましたが、大変恐ろしく思いながらも僧はその行列の美しい主、馬にまたがった美女を忘れることができなかったのです。その話を聞くと、カマル・アル・ザマンは美女に興味を惹かれ、バスラの街へと旅に出ました。そこで、その美女は街で一番の宝石細工師ウバイドの妻であったことがわかりますが、カマル・アル・ザマンとその美女は恋に落ち、互いの愛を確かめ合いながら夜を過ごすこととなるのでした。

「海から生まれたユルナールとその息子ペルシア王バドル・バシム」(4-7枚目)
ある日、奴隷商人から一人の女奴隷を引き取ったペルシア国の王は、その美しい娘に大変夢中になりました。しかしながら、娘はどれだけ王に話しかけられても、どんなに楽しい宴が催されても、決して王と口を開くことはありませんでした。王と娘の生活が始まり1年が過ぎたころ、娘は王に初めて話しかけます。それは王の子どもを身籠ったという内容でした。王はこの上なく喜びましたが、同時に娘は、自分は海王の娘ユルナールであり、兄と喧嘩して岸辺にいたところ、人間の男にさらわれたのであるということを王に告げます。その後、バドル・バシムと名付けられたユルナールの息子はジャウハラ姫に恋しますが、姫の父王は婚姻の申し出を断り、そのことが発端となって互いに争いが生じます。木の上に避難していたジャウハラ姫は争いのもとである父王に復讐するために木から降りていき、また、バドル・バシムと抱き合うのでした。のちにバドル・バシムはある美しい女王と結婚しますが、実はその女王は魔女であったことがわかります。魔女はイクリットと呼ばれる魔神を使いバドル・バシムを連れ去ろうとしますが、バドル・バシムの母であるユルナールが現れ、彼を救い出します。母親に助けられたバドル・バシムはもう一度ジャウハラ姫に求婚し、二人は幸せに暮らすこととなるのでした。

「漁師アブズラーと海の人アブズラー」(8-9枚目)
 ある日、貧しいアブズラーが海で漁をしているとある男が網にかかりました。男の名前を尋ねると、彼もまたアブズラーという名前でした。海のアブズラーは海の中に豊富にある宝石と果物の交換を申し出ます。貧しかった陸のアブズラーはその申し出を受け入れ、イチジクや柘榴を真珠や珊瑚、エメラルドと交換することで一転裕福になりました。また、陸のアブズラーは海のアブズラーによって海の中の大国に案内されます。特殊な脂を体に塗ることで海中での呼吸が可能となり、海の国での生活を満喫しますが、生の魚ばかりの食事に次第に飽きはじめ、また、互いの「死」に対する考え方の違いが発端となり、その友情は終わってしまうのでした。

「黒檀の馬の物語」(10-12枚目)
 ある日の祭りの日、3人の賢者が王に贈り物をしました。1人目は1日の時間の移り変わりを示す「黄金の24羽の雌孔雀と1羽の雄孔雀」、2人目は遥か彼方の敵を見つけ、その音で追い払う「真鍮のラッパ」、そして3人目は、それに乗れば空を飛んでどこへでも行けるという「黒檀で作られた馬」を贈りました。王はそれぞれの賢者に3人の王女を嫁がせましたが、3人目の賢者は見るに耐えないほど醜かったため、王女は泣き崩れてしまいます。それを見たカマララクマール王子は王に結婚の取りやめを申し出ましたが、王は黒檀の馬の素晴らしさを見れば王子も考えが変わるだろうと言い、王子に黒檀の馬を試させました。しかし、王子を乗せた黒檀の馬は王女のところへと誘うどころか、ただただ空高くへと上昇していきます。次第に王子は王女のことを忘れて空の散歩を楽しむようになってしまい、ある日、王子は美しい姫を見つけて夢中になります。そしてその姫もまた王子に心を寄せます。国に戻った王子は姫との結婚を反対されますが、やはり姫のことが忘れられず姫のいる宮殿へと戻って行ったのでした。

「アラビアンナイトから4つの物語」はわずか111部しか印刷されず、その多くが分割されてしまうことも多いなかで、今回出品作は12枚と表紙もそろう貴重なものである。絵画作品にも劣らない表現力に満ちたこの傑作から、シャガールの魅力を味わっていただきたい。