LOT.217


蘆原図屏風

  • 作品カテゴリ: 日本古書画
  • 156.1×348.8cm
  • 紙本彩色・六曲一隻屏風
  • / 江戸時代前期(17世紀)
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  • 予想落札価格: ¥3,000,000~¥5,000,000

[展覧会歴]:『春の江戸絵画まつり 江戸絵画お絵かき教室』出品/同展覧会図録P120, No.69掲載(府中市美術館:2023年)

〈作品について〉


 屏風絵は、室内の仕切りをする実用品としての役割と、絵画という芸術性を兼ねそなえた、日本独自の美術分野である。
 もともと屏風は飛鳥時代に中国から伝来し、平安時代には室内を装飾するために屏風に絵を描いたものが貴族に愛好されるようになった。そして室町時代に、それまでひとつのパネルごとに縁取りされていた屏風が、縁をなくして全体がひと続きとなる画面を獲得すると、つづく安土桃山時代では豪壮華麗な気風を反映した、大画面によるダイナミックな屏風絵へと発展する。江戸時代でも屏風絵は重要な地位を保ち、漢画・やまと絵・水墨画・琳派など、さまざまな絵師によって多種多様な作品が手がけられた。

 今回出品作《蘆原図屏風》は、江戸時代前期に制作された、六曲一隻の屏風絵である。
 蘆の生える水辺に霞雲がたれこめ、そのなかを帆掛け舟が行き交う風景を表す。蘆の様子より季節はおそらく晩春もしくは夏であり、葉の傾く姿と帆が大きく膨らむ描写から、画面の右から左にかけて強い風が吹いていることを示す。シンプルな造形であるが、その簡素さによって水景の涼やかさと、風の爽やかさを感じさせるだろう。
 彩色は、画面のほとんどを金雲が覆い、その金色を引き締めるような墨色の水面と、金地に映える青々とした植物の緑がアクセントとなり、豪奢でありながら洗練された印象をもつ。
 また、蘆の表現に注目すると、右の草むらが緑色に対し、左の方は金色で描かれており、色によって右側が手前、左側が奥といった空間の奥行を表すような演出も心にくい。

 さらに、左側の蘆の図柄をわかりやすくするために、雲が金箔で、蘆は金泥で塗られ、同じ金でも異なる手法を用いている。ほかにも、雲のふちに大小の切箔や砂子を細かく置き、なおかつ金泥を刷毛で真横にはくことで、水辺の煙るような空気感を出す。加えて、舟の帆には銀を使い、今は色褪せてしまっているものの制作当時であれば、光に当たった帆が白く輝いていたと思われ、金と銀の光り方のちがいを活用する。
 海浜や水辺の情景を描いた屏風絵は古くから愛好されるが、本作は実景に即したものというよりも、蘆や舟などの水景の要素を厳選し、構成されている。蘆と舟の組み合わせは平安時代の料紙装飾から見られた意匠で、本作の制作当時である17 世紀にも流行し、伝本阿弥光悦作の《芦舟蒔絵硯箱》(重要文化財)など漆芸の世界でも喜ばれた題材であった。本作も、漆黒を思わせる水面や、蒔絵に通じるような金銀の技法が見え、絵画・工芸問わず多彩な文化が花開いた江戸時代らしい1 作である。