LOT.131
Léonard Foujita (藤田嗣治)〈1886-1968〉
Jeune Fille au Chat (猫と少女)
[掲載文献]:『LEONARD-TSUGUHARU FOUJITA (ACR Edition) Volume 2』P385, No.50.100 掲載 (Sylvie et Dominique Buisson:2001年)
〈作家・作品について〉
凛とした表情の女性の肖像。戦後のフジタが描いた子どもたちの作品とは異なり非常に写実的な描写であるが、その特異な筆捌きによる「線」はそれがフジタ作品であることを主張している。女性の首元にあしらわれた黒いチョーカーは厳格さとエレガンスさを兼ね備えたものとして、階級や年齢を問わず幅広い人々に装飾品として愛用されていたものである。衣服やアクセサリーが画家にとって当時の流行を反映する重要な要素であったことはいうまでもないが、特に黒いチョーカーの使用は西洋絵画のルールに則ったフジタらしい装飾の選択であったといえよう。
本作品における最大の魅力は、紙の上でこそみられる繊細なフジタの筆捌きがそこかしこで堪能できるところにある。少女の髪飾りの表現や両手で隠された洋服の皺、少女の背後から顔を覗かせる猫の毛などの線描はまさにフジタここにありと言わんばかりの出来である。
また、猫はフジタがその画業の中で一貫して描き続けたモチーフであるが、凛とした印象の女性とは対照的に少しおどけたような独特の表情をしており、このフジタらしい人物と猫との表情や動きの対比は作品を一段とユニークなものにしている。
作品左下にはサインと共に「1950」という記述がある。1950 年の1 月に念願叶ってフランスへの入国許可がおり、2 月の半ばにフジタはパリへ戻る。パリへ戻ると早速、ポール・ペトリデスの画廊で個展を開催し、第42 回のサロン・ドートンヌにも出品をしており、休むことなく精力的に活動を続けたまさに再渡仏後における全盛期の年であったともいえよう。
画中の少女に特定のモデルがいたのか、或いは、フジタの想像の中の少女であったのかははっきりとしないが、いずれにしても本作品はそのモチーフと繊細な筆捌きにより、非常に洗練された高貴な印象を我々に与えてくれる一枚となっている。